【暇狗さんの投稿】

これは、私がある夏の昼間に昼寝をしていた時の話。

ただ眠かったから、昼寝をしていただけだったのだが、ふとした拍子に”右目”だけが開き、私は「ああ、起きちゃった」と思っていた。
しかし、”右目”だけと言っている通り、反対の”左目”はどうしても開けることができない。”右目”は壁を見続けているが、”左目”は真っ暗な何処かを映していたんだ。

私は、何か得体のしれない恐怖に駆られ、「起きよう!起きよう!」と頭の中で叫んで身体を動かそうとしても全く動く気配がない。
そして、”左目”の景色はだんだんと変わっていく。何処か、学校にあるような廊下を映し出したのだ。薄暗くぼんやりとで、視点も低かったのか床も見えていた。まるで、廊下の上で寝転んでいるように。

景色が変わると、今度は音を拾い始めた。
「カンッ!コロコロ……」
と廊下の奥の方から、本当にゆっくりと少しずつビー玉が私に向かって転がってくるのだ。
そして、ビー玉が現れたと同時に、真っ黒な人影が現れ、コロコロと転がるビー玉の後ろを歩き始めた。
人影は、顔も服装も分からない位に真っ黒なくせに、口だけがはっきりと見え、歯並びのいい真っ白な歯を見せながらニヤニヤと笑いながら、ビー玉と共に私へと向かってくるのだ。

この時、普通なら人影を怖がりそうなものの、私はその人影よりもビー玉の方が恐ろしくて堪らなかった。廊下はゆるやかな坂なのだろうか、本当にゆっくり、だが、少しずつ確実に私へと転がってくるのだ。

そんな情景をみている”左目”と、家の中の壁を見続けている”右目”。
私は逃げようと試みるも、身体は動かないし起きることもできない。
”右目”は起きていると自覚しているから、自分の身体のこともよくわかり、動機も激しくなり冷や汗も止まることを知らない位身体から溢れていた。
そして、”左目”の視線のすぐ近くまでビー玉は転がってきて、あと少しで私の所へとついてしまう!
というギリギリところで、身体が動くようになり、”左目”も目覚め”右目”と同じ家の壁を見ていた。
あれは何だったのか、何で無性にビー玉が恐ろしかったのか、今でもよくわからない。