わたくしがこの天界でお世話になり始めてから、もう二ヶ月になります。
いつになったら、神様にお会いできるのでしょうか。
この天界はとても平和です。
とんでもなく強力な結界が張ってあるかららしいのですけど、それだけじゃなくて……
お庭がすごく綺麗なのです。
「よっ、どうしたんだよ、リリエル。そんなとこに、ぼーっと突っ立ってさ」
「あ、クロウエル先輩。あの……」
わたくしはお庭の一角を指差しました。
ガルシオン先輩がいます。腰を落とし、お庭の手入れをしています。
その眼差しは、とても穏やかで――
「ああ、ガルシオンか……」
クロウエル先輩がぽりぽりと頭を搔きました。
「なんかさ、あいつも変な奴だよな」
「変、ですか……?」
「んー、とっつき辛いっていうか……そりゃ物腰は柔らかいし、みんなに分け隔てないし、背も高いし顔も悪くねえし、一見すると非の打ち所がないんだけどさ……」
「壁を、感じる……ですか?」
クロウエル先輩がわたくしの手をがしりと掴みました。
「そうっ、そうなんだよ! そっか、やっぱリリエルも同じことを感じてんだな」
「でも……なんとなく、そんな気がするというくらいで、はっきりと感じているわけでは……」
そうなのです。レキエル先輩くらい露骨な態度なら、わかりやすいのですけど……
クロウエル先輩がわたしの手を離し、片手で髪の毛をくしゃくしゃと搔きました。
「なんで、あいつだけネルエルの部屋に入れるんだろうな。二人で何してんのか、訊いても教えてくんねえしよ……」
「はい……」
実はわたくしも同じ質問を、ガルシオン先輩に投げかけたことがあります。
ガルシオン先輩は小さく笑って、「いずれわかるよ」と言うだけでした。わたくしが壁を感じたのは、まさにそのときなのです。
顔は笑っているのに、眼は「それ以上訊くな」と、わたくしを拒絶しているようでした。
でも――
「お庭のお手入れをしているガルシオン先輩は、とても優しい眼をしておられますよね……
今の先輩からは、壁を感じません……」
「確かにな……あっ――」
クロウエル先輩の視線を追うと、向こうから歩いてくるシェリエル先輩が見えました。
シェリエル先輩はおっぱいをぼよんぼよん揺らしながら、ガルシオン先輩に歩み寄ります。
何やらガルシオン先輩に話しかけているようですが、わたくしたちには会話の内容が聞き取れません。
「なに話してんだろうな」
「さあ……」
ちょっと気になります。
しばらくすると、ガルシオン先輩が立ち上がりました。
あれ、なんだかあのお二人――
「なあ、リリエル。あいつら、さっきからあたしたちのこと、ちらちら見てね?」
「はい。そのようですね……」
「なんだよ、気になるじゃねえか……」
おっぱいを強調するように腕を組むシェリエル先輩。
顎に片手を当てて俯くガルシオン先輩。
なんだか真面目なお話をされているような雰囲気です。ますます気になります。
不意にガルシオン先輩が顔を上げ、はっきりとこちらを見ました。
「あ……」
思い切り眼が合ってしまいました。ひょっとしてガルシオン先輩は、先ほどからわたくしを見ていたのでしょうか……
「おい、リリエル。二人ともこっちに来るぞ。どうしよ。逃げるか?」
「何も逃げることはないかと……」
「そ、そっか。そうだよな、うん……」
そうこうしているうちに、目の前にはガルシオン先輩とリリエル先輩が立っています。
ガルシオン先輩はじっとわたくしを見下ろしています。興味深げな視線です。
「あの、何でしょうか……」
「リリエル、ガラポンを回してみるかい?」
ガルシオン先輩のこの一言が、わたくしを神様へと導いてくれるきっかけになるなんて、
このときは思いもしませんでした。