「ついに……ついに、このときが来たのですね!」
わたくしは思わず声を上げてしまいました。
なぜなら、いよいよこの天界に神様をお迎えする準備が整ったらしいのです。
回路の間に集まった先輩方も心なしか興奮を隠せないようです。
それもそのはず。
神様さえ、神様さえいらっしゃれば……
悪魔たちとの絶望的な戦いに、希望の光をもたらしてくれるに違いないのです。
「それで、神様はどこにおられるのですか?」
「そうだよ。ここで待ってりゃ来てくれんのか?」
沈黙です。わたくしとクロウエル先輩の質問に、誰も答えてくれません。
「実はね……」
顎鬚を撫でるガルシオン先輩。
「神様はまだどこにもいないんだよ」
「神様が、まだいない……? あの、どういうことでしょうか……」
ガルシオン先輩が運命革命回路に手を当てました。
「ようやく、こいつの再調整が終わった。あとは神様を迎えるだけ。でも、その肝心の神様は――俺たちで探さなきゃいけない、ということさ」
クロウエル先輩が片手で顔を覆いました。
「おいおい、マジかよ。探すとこから始めなきゃなんねえのかよ……」
「仕方ないじゃなぁい。そういうふうにできてるんだからぁ♪ ねえ、レキエル?」
シェリエル先輩が何やら意味ありげな視線をレキエル先輩に送りました。
おまけに色っぽいウインクをひとつ。
「ふんっ」
どこまでも素っ気無いレキエル先輩です。
それにしても、神様を探すなんて、どうすればいいのでしょうか。
『私は神です』なんて看板を下げているヒトがいるはずもありませんし……
「ガルシオン、能書きはその辺りでいいわ。さっさと本題に入りなさいな」
キモカワなぬいぐるみを抱えたラナエル先輩が、ふふんと鼻を鳴らします。
「誰が探しにいくのかしら? 新たな神を」
「それなんだが……俺はリリエルに任せたいと思っている」
「え……? わたくしが、神様を探しにいくのですか……?」
「そうだ。是非、君に頼みたい」
ガルシオン先輩がパチンと指を鳴らしました。
すると、どうでしょう。
何もなかった空間に、ガラポンが出現したのです。
「あの、これは……?」
「まあ、いわゆる運命の抽選機というヤツだよ。こいつで一等賞を当てたものが神様だ」
「はあ……」
「これが説明書だよ。一等賞を引き当てたものを神様として、この天界に迎え入れる手順が書いてある。ちゃんと読んでおいてくれ」
わたくしはペラペラと説明書をめくりました。
そこに書かれていた内容は、いくらなんでも――
「あの、ガルシオン先輩……本当に、この手順で大丈夫なのでしょうか……ちょっと乱暴な気がしますです……」
「問題ないよ。思いっきりやってくれ」
「はあ……で、でも、わたくしなんかでよいのでしょうか。わたくしはまだ、ここに来たばかりで、その……」
「だからこそよぉ♪」
シェリエル先輩がわたくしの肩をぽんと叩きました。
「あなたがこの天界に来たのも何かの導きだと思うもの。それにリリエル、あのアルカナを憶えてる?あなたは運命の輪、ホイール・オブ・フォーチュン。きっと素敵な神様に巡り合うことができるわ♪」
「は、はいっ! わたくし、頑張ります!」
わたくしはガルシオン先輩から手渡された運命の抽選機を、胸の前でしっかりと抱えました。
「これから君を次元階層の彼方へ跳ばす。その先の世界に、我らの神がいるはずだ。頼んだよ、リリエル」
頷くと同時に、わたくしの身体は光の粒子に包まれました。
嗚呼、まだ見ぬ神様。待っていてください。
わたくしは必ず、あなたの元へ参ります……