Web小説『エトワールお嬢様の冒険』

プロローグ
『死の世界にて』

ピチョン……。
ピチョン……。

深い暗闇に閉ざされた空間に、したたり落ちる水音だけがやけに響く。
ねっとりと肌にからみつくような湿気。
息を止めていても鼻をつく異臭。

――この洞窟には『死』が充満していた。
必死に吐き気をこらえながら、エトワール・ローゼンクイーンは闇をさまよっていた。
その両脇にはいつものように、ボディーガードのモミーとハマーがひかえている。
屈強な彼らでさえも、この死の世界では、逆流する胃液と戦いながら歩くのが精一杯の様子だった。

エトワール
(ランチを食べずに来て正解でしたわ。)

エトワール
(もし食べていたら、完全にアウトでしたわね……)

どうせ死ぬのなら美しく死にたい。
隣り合わせの死の危険の中で、エトワールは思った。

しかし、すぐにそんな弱気な気持ちをかき消すかのように首を振る。
一瞬でも生きることをあきらめてしまった自分が情けない。

美しい死などありはしない。
生きていてこそ、美しさを楽しめるのだ。
自分は生き延びて、あと百年は美しいまま自由に好き放題して暮らしていくのだ!

多少ゆがんでいるかもしれない鋼の精神で、エトワールは自分に言い聞かせた。
そして、歯を食いしばり、再び歩を進めた。
この死の世界の主を追い求めて……。