第一幕
『一通の手紙』
幼なじみ兼ライバルのコルネットが五年前にマール王国の王子フェルディナンドと結婚して以来、エトワールはケンカ相手がいなくなり、毎日をユウウツなため息とともに過ごしていた。
五年前──あの大冒険のことは、今でも鮮明に覚えている。
史上最凶最悪の魔女マージョリーを敵に回し、世界中を駆け巡ったあの冒険。
ドジなコルネットを影でささえながら、ついにはフェルディナンド王子を救い出したあの冒険。
思い出すだけで胸がおどる。
そう。
今のエトワールは、まさにそういった冒険にうえていたのである。
エトワール・ローゼンクイーンは今年で二十一歳。
自慢の美貌にますます磨きはかかれど、その性格のせいか嫁のもらい手は一向に現れない。
もちろん、世界一の大イノチウム持ちローゼンクイーン家の一人娘ともなれば、縁談の一つや二つどころか売り歩くほどある。
(※イノチウムはマール王国の通貨単位)
しかし、本人いわく、
という、よんどころない事情で、他の貴族の娘が次々と嫁いでいく中、いまだ結婚していない。
そんなわけで、今日も見事に手入れが行き届いたローゼンクイーン家の庭園には、午後のミルクティーを飲みながら、退屈そうにため息をつく彼女の姿があった。
少女時代からのケンカ友達だったコルネットも、今やマール王国の王妃であり、一児の母親である。
出産後にエトワールも何度か遊びに行ったが、顔を見るたびにことごとく娘のクルルに泣かれてしまうので、最近は城へ出入りすることも少なくなっている。
そして、さらに大きなため息をもう一つ。
はなはだ迷惑なお願いである。
お願いされる神様も、たまったものではない。
しかし、そんなエトワールの想いが通じたのか、一通の手紙が届いた。
ドスのきいた声でしなびた封筒を手渡したのがモミー。
その横で気持ち良さそうに葉巻を吹かしているのがハマー。
二人とも、エトワール専属のボディーガードである。
元傭兵の鍛え上げられた体を黒のスーツにつつみ、軍帽とサングラスで決めた姿は威圧感バツグンだ。
一方、昔ケガをしたときに手当てをしてくれたエトワールに今でも仕えているという、義理堅い面もある。
エトワールは、バラの彫刻をほどこしたペーパーナイフで手紙を開封し、目を通した。
文字を追う彼女の目は、しだいに喜びと興奮の光で満たされていった。
その手紙の内容は、彼女が長年待ち焦がれていた、エキサイティングかつファンタスティックな事件への招待状ともいえるべきものだったのだ。
手紙を読み終えたエトワールは、まるで子供のように目を輝かせ、立ち上がった。
その象牙細工のように繊細な手は、喜びのあまりかすかにふるえていた。
五年前──あの大冒険のことは、今でも鮮明に覚えている。
史上最凶最悪の魔女マージョリーを敵に回し、世界中を駆け巡ったあの冒険。
ドジなコルネットを影でささえながら、ついにはフェルディナンド王子を救い出したあの冒険。
思い出すだけで胸がおどる。
そう。
今のエトワールは、まさにそういった冒険にうえていたのである。
エトワール・ローゼンクイーンは今年で二十一歳。
自慢の美貌にますます磨きはかかれど、その性格のせいか嫁のもらい手は一向に現れない。
もちろん、世界一の大イノチウム持ちローゼンクイーン家の一人娘ともなれば、縁談の一つや二つどころか売り歩くほどある。
(※イノチウムはマール王国の通貨単位)
しかし、本人いわく、
エトワール
「オーッホッホッホッホッホッホッ!
ワタクシに見合う殿方なんて、この世にいませんことよ!」
ワタクシに見合う殿方なんて、この世にいませんことよ!」
という、よんどころない事情で、他の貴族の娘が次々と嫁いでいく中、いまだ結婚していない。
そんなわけで、今日も見事に手入れが行き届いたローゼンクイーン家の庭園には、午後のミルクティーを飲みながら、退屈そうにため息をつく彼女の姿があった。
エトワール
「ふぅ、退屈ったら、ありゃしないですわ~。
コルネットは、クルルちゃんの育児で毎日大忙し。
あれじゃ、からかいがいもないってものですわ。」
コルネットは、クルルちゃんの育児で毎日大忙し。
あれじゃ、からかいがいもないってものですわ。」
少女時代からのケンカ友達だったコルネットも、今やマール王国の王妃であり、一児の母親である。
出産後にエトワールも何度か遊びに行ったが、顔を見るたびにことごとく娘のクルルに泣かれてしまうので、最近は城へ出入りすることも少なくなっている。
そして、さらに大きなため息をもう一つ。
エトワール
「ふぅ。
どこかで刺激的な事件でも起きないものかしら?
ああ、神様お願い。
どうかエトワールのお願いをかなえて。」
どこかで刺激的な事件でも起きないものかしら?
ああ、神様お願い。
どうかエトワールのお願いをかなえて。」
はなはだ迷惑なお願いである。
お願いされる神様も、たまったものではない。
しかし、そんなエトワールの想いが通じたのか、一通の手紙が届いた。
モミー
「お嬢さん。手紙が届きやしたぜ。」ドスのきいた声でしなびた封筒を手渡したのがモミー。
ハマー
「プッハァァーーー。」
その横で気持ち良さそうに葉巻を吹かしているのがハマー。
二人とも、エトワール専属のボディーガードである。
元傭兵の鍛え上げられた体を黒のスーツにつつみ、軍帽とサングラスで決めた姿は威圧感バツグンだ。
一方、昔ケガをしたときに手当てをしてくれたエトワールに今でも仕えているという、義理堅い面もある。
エトワールは、バラの彫刻をほどこしたペーパーナイフで手紙を開封し、目を通した。
文字を追う彼女の目は、しだいに喜びと興奮の光で満たされていった。
その手紙の内容は、彼女が長年待ち焦がれていた、エキサイティングかつファンタスティックな事件への招待状ともいえるべきものだったのだ。
ローゼンクイーン卿
エトワール様
エトワール様。
どうか私どもの村をお救いください。
ぶしつけに何事かとお思いでしょうが、火急の用件として失礼はご容赦下さいますようお願いいたします。
私は中原のグラスホッパー村に住む医者でチョリスと申します。
私どもの村は悪魔に魅入られてしまいました。
エトワール様。
もはや頼れるのは、あなた様をおいて他にないのです。
どうか私どもの声があなた様に届きますように……。
エトワール様
エトワール様。
どうか私どもの村をお救いください。
ぶしつけに何事かとお思いでしょうが、火急の用件として失礼はご容赦下さいますようお願いいたします。
私は中原のグラスホッパー村に住む医者でチョリスと申します。
私どもの村は悪魔に魅入られてしまいました。
エトワール様。
もはや頼れるのは、あなた様をおいて他にないのです。
どうか私どもの声があなた様に届きますように……。
チョリス・チョリセ
手紙を読み終えたエトワールは、まるで子供のように目を輝かせ、立ち上がった。
その象牙細工のように繊細な手は、喜びのあまりかすかにふるえていた。
エトワール
「これよ!
これですわ!
ワタクシはこういう展開をお待ちしていたのですわ!
オーッホッホッホッホッホッホッ!」
これですわ!
ワタクシはこういう展開をお待ちしていたのですわ!
オーッホッホッホッホッホッホッ!」