第二幕
『エトワールとクレアトゥール』
グラスホッパー村は、マザーグリーンから西に約350キロ向かった平原に位置する。
気候は穏やかで、村人たちは主に羊の放牧で生計を立てている。
手紙を受け取ったエトワールは半日をおかず馬車を走らせたが、到着まで丸二日を要した。
エトワール
このときの想い──不満のパワーを原動力にして、エトワールは数年後、飛行船『トトカルチョ号』を完成させることになる。
エトワールは村に着くと、休憩も取らずさっそく手紙の差出人チョリスの家へ向かうことにした。
手紙の内容からして緊急の用件であることと、エトワール自身、一秒でも早く事件に首を突っ込みたかったからだ。
馬車をゆっくり走らせながら、村の状況を観察する。
放牧に出かける男たち。
家の前で遊ぶ男の子たち。
一見、平和な村のように思えたが、そのうち少々おかしな点があることに気がついた。
それは、女たちの姿がほとんど見当たらないということだった。
しかし、単に家の中にいるだけかもしれないと思い、エトワールはすぐにそのことを忘れた。
そうこうしているうちに、目的のチョリス家にたどり着いた。
チョリスは村の唯一の医者で、なかなか立派なレンガ作りの診療所をかまえていた。
手紙に添えてあった地図のおかげで迷うこともなかった。
呼び鈴を押すと、中から小さな女の子が出てきた。
エトワールは一瞬ひるんだが、精一杯の笑顔を作ってたずねた。
エトワール
女の子はエトワールの心の内を探るように、じっと顔を見た後、黙って奥へ走り去っていった。
モミー
ハマー
モミーとハマーがそういって笑う。
エトワールは、なぜか子供に嫌われる。
なんとなく理由はわかっている。
それはエトワールが『子供は苦手だ』と思っているからだ。
子供はわがままだし、すぐに泣くし、とても理解のできない生き物だと思っている。
子供というのは案外鋭いもので、そんなエトワールの心の内を敏感に感じ取ってか、みんな逃げていってしまう。
エトワール
などと強がりをいっている間に、奥から三十後半ぐらいの少し白髪混じりの男が出てきた。
男は自分がチョリスだと名乗り、エトワールたちが来てくれたことをしきりに感謝した。
そして、横にいる同じ年頃の女性と、さきほどの小さな女の子を紹介した。
チョリス
クレアトゥールと呼ばれた女の子は黙ってエトワールのほうを見ている。
それに対し、エトワールが名誉挽回とばかりに100万イノチウムの笑顔で話しかけた。
エトワール
しかし、答えは返ってこず、女の子は父親のうしろに隠れてしまった。
エトワール
予想通りの展開ではあるが、思わず笑顔が引きつってしまう。
チョリス
エトワールに気を遣い、あわててチョリスがうながすと、クレアと呼ばれた女の子はまたまた家の奥へと逃げていってしまった。
アイリス
チョリス
と、本当に申し訳なさそうにチョリセ夫妻が何度も頭を下げる。
エトワール
徹夜で鏡とにらめっこした末にあみ出した100万イノチウムの笑顔をあっさりと踏みにじられてしまったエトワールは、怒りをぶつける相手もなく、腕組みをして心の中で愚痴をこぼすしかなかった。
気候は穏やかで、村人たちは主に羊の放牧で生計を立てている。
手紙を受け取ったエトワールは半日をおかず馬車を走らせたが、到着まで丸二日を要した。

「まったく、移動に二日もかかるなんて、とんだお時間のムダですわ!
乗り心地は悪いわ、おヒップは痛いわ、もう最ッ低ですわ!」
乗り心地は悪いわ、おヒップは痛いわ、もう最ッ低ですわ!」
このときの想い──不満のパワーを原動力にして、エトワールは数年後、飛行船『トトカルチョ号』を完成させることになる。
エトワールは村に着くと、休憩も取らずさっそく手紙の差出人チョリスの家へ向かうことにした。
手紙の内容からして緊急の用件であることと、エトワール自身、一秒でも早く事件に首を突っ込みたかったからだ。
馬車をゆっくり走らせながら、村の状況を観察する。
放牧に出かける男たち。
家の前で遊ぶ男の子たち。
一見、平和な村のように思えたが、そのうち少々おかしな点があることに気がついた。
それは、女たちの姿がほとんど見当たらないということだった。
しかし、単に家の中にいるだけかもしれないと思い、エトワールはすぐにそのことを忘れた。
そうこうしているうちに、目的のチョリス家にたどり着いた。
チョリスは村の唯一の医者で、なかなか立派なレンガ作りの診療所をかまえていた。
手紙に添えてあった地図のおかげで迷うこともなかった。
呼び鈴を押すと、中から小さな女の子が出てきた。
エトワールは一瞬ひるんだが、精一杯の笑顔を作ってたずねた。

「こんにちは。
おうちの人はいらっしゃるかしら?」
おうちの人はいらっしゃるかしら?」
女の子はエトワールの心の内を探るように、じっと顔を見た後、黙って奥へ走り去っていった。

「また逃げられやしたね、お嬢さん。」

「お嬢さんは子供に好かれやせんからね。」
モミーとハマーがそういって笑う。
エトワールは、なぜか子供に嫌われる。
なんとなく理由はわかっている。
それはエトワールが『子供は苦手だ』と思っているからだ。
子供はわがままだし、すぐに泣くし、とても理解のできない生き物だと思っている。
子供というのは案外鋭いもので、そんなエトワールの心の内を敏感に感じ取ってか、みんな逃げていってしまう。

「オ、オ、オホ、オホホホホホ!
モミー、ハマー!
あれはただの照れ隠しですわよ!
あんまり美人のお姉様が出てきたものだから、恥ずかしがってますのよ、きっと!」
モミー、ハマー!
あれはただの照れ隠しですわよ!
あんまり美人のお姉様が出てきたものだから、恥ずかしがってますのよ、きっと!」
などと強がりをいっている間に、奥から三十後半ぐらいの少し白髪混じりの男が出てきた。
男は自分がチョリスだと名乗り、エトワールたちが来てくれたことをしきりに感謝した。
そして、横にいる同じ年頃の女性と、さきほどの小さな女の子を紹介した。

「本当によくいらしてくださいました、エトワール様。
彼女は家内のアイリス。
この子は娘のクレアトゥールです。」
彼女は家内のアイリス。
この子は娘のクレアトゥールです。」
クレアトゥールと呼ばれた女の子は黙ってエトワールのほうを見ている。
それに対し、エトワールが名誉挽回とばかりに100万イノチウムの笑顔で話しかけた。

「かわいいお嬢ちゃんですわね。
歳はいくつかしら?」
歳はいくつかしら?」
しかし、答えは返ってこず、女の子は父親のうしろに隠れてしまった。

「うぐっ……。」
予想通りの展開ではあるが、思わず笑顔が引きつってしまう。

「こ、これ、クレア。
ちゃんと、ごあいさつしなさい。」
ちゃんと、ごあいさつしなさい。」
エトワールに気を遣い、あわててチョリスがうながすと、クレアと呼ばれた女の子はまたまた家の奥へと逃げていってしまった。

「す、すみません、エトワール様。
クレアはまだ三つになったばかりで……。」
クレアはまだ三つになったばかりで……。」

「どうもあの子は、はにかみ屋のようでして……。」
と、本当に申し訳なさそうにチョリセ夫妻が何度も頭を下げる。

(だから、ガキンチョは嫌いですのよ!)
徹夜で鏡とにらめっこした末にあみ出した100万イノチウムの笑顔をあっさりと踏みにじられてしまったエトワールは、怒りをぶつける相手もなく、腕組みをして心の中で愚痴をこぼすしかなかった。