桝田省治死す。

ゲームの企画は、どんなときに思いつくのか?

◆おじちゃんを信じちゃいけない

 はじめに身も蓋もない大人の事情から書こう。このページは、普通のコラムのように見えるかもしれない。だが実態は(タイトルを見ればバレバレだが)来年2月日本一ソフトウェアから発売予定の「勇者死す。」のPRページだ。だからこのコラム内で同作品がとても面白そうに紹介されていたとしても、おじちゃんの言うことをまともに信じちゃいけないよ(笑)。
 ただまあPRページだからといって「勇者死す。」ごり押しの内容では興がないし読者もドン引きだろう。よって毎回わりとゲームデザインに関する普遍的お題を立てる。その具体的な例として〈たまたま〉「勇者死す。では……」と自然に宣伝が混ざる。そんな感じでごまかしていこうと思う。
 加えて、普遍的なネタが思いつかなかったときには、音声収録の現場レポートなどでなんとかつなぐか、クロサワテツ氏のイラストでスペースを埋めて文字量を減らす作戦だ。ちなみにこの原稿を書いているのは6月26日。ちょうど昨夜、声優さんに渡す台本を書き終えたところだ。おそらくこのコラムが掲載されるころには都内某所の小さなスタジオで収録がはじまっているはずだ。

◆ゲームの企画は、どんなときに思いつくのか?

 さて第一回のお題は「ゲームの企画は、どんなときに思いつくのか?」だ。ただし着想の日時を正確に特定できる企画などほぼない。さまざまな要素が複雑に影響しあってだんだん形になってくることがほとんどだからだ。しかし日時が特定できるケースもまれにある。〈たまたま〉ではあるが、なんと!!「勇者死す。」がその例だ。
 1995年1月16日、阪神淡路大震災の前日、僕は芦屋の病院にいた。芦屋の場所を知らない方も高速道路が横倒しになった映像は記憶にあるだろう。あの近くだ。病院にいた理由は父の肝硬変の手術に立ち会うためだ。手術の成功確率、1年、3年、5年、10年後の生存確率を事前に執刀医に告げられて同意書にサインした。
 そして同日、手術の成功を見届けた帰りの新幹線の車中で書いたメモが「勇者死す。」の企画書第一稿となる。

◆残された時間をいかに生きるかというテーマ

 手術は成功した。おまけに麻酔が効いていたおかげで震災の恐怖を体感することもなく、幾度かの入退院を繰り返しながらも、父は術後10年生きた。
 この10年で僕は父の変化を目の当たりにする。体力は徐々に衰え、ゴルフからちぎり絵に趣味が変わり、盛んに「感謝」を口にするようになった。残された時間におびえているようにも、残された時間をいつくしんでいるようにも見えた。……という僕の情緒的な感想ではいまひとつイメージがわかない方は、恋人や親族が不治の病で余命いくばくもないことが発覚し、残された日々にどう向き合うかをテーマにしたテレビドラマや映画を思い浮かべてもらえばいい。だいたい似たような構成内容だ。
 ここで注目してほしいのは、「残された時間をいかに生きるか」は、テレビや映画では何度も制作されてきた鉄板のテーマであるにも関わらず、ゲームというメディアではほとんど取り上げられていない点だ。つまり需要は明らかに存在するのに対応した商品が開発されていない。あるいは競合者がいない、先行者利益を得られる可能性があると言い換えてもいい。よって「残された時間をいかに生きるか」というテーマは、新しいゲームの企画としてチャンスがある。僕はそう見当をつけた。
魔法また忘れた。剣や鎧重すぎ

◆エンディングは葬儀。葬儀は人生の結果発表

 次は手術から10年後、父の葬儀の話だ。僕は長男なので形式上は喪主で弔問客に挨拶する立場だ。だが、20年以上離れて暮らしていたので父の交友関係はまったく把握しておらず、数人の親戚を除けば弔問客全員がほぼ初対面だった。
 実に興味深かったのは、父の友人たちが語る父の思い出話だ。そこには僕の知らない父がいた。
 たとえばこんな話だ。父は若いころ激務から胃潰瘍になった。数ヶ月通院すれば投薬で治せるという診断だったが、1週間で片がつくという理由で手術を選んだらしい。
 なぜ父は投薬治療を放棄し、性急に手術を選択したのか?
 おそらく僕が生まれたからだ。怠惰な僕ですら長男が生まれたときは「稼がねば」「働かねば」と思ったくらいだ。生真面目な父なら数ヶ月間の通院など時間が惜しいと感じたに違いない。挙句にその手術の輸血が原因で肝炎から肝硬変、肝臓がんと進行。結果として平均よりずいぶん短い一生を終えた。
 もちろん僕には責任はない。だが、もしも僕が生まれていなかったら父には別の人生があったかもしれない、弔問客の面子も葬儀で語られる思い出話も違ったかもしれないと想像してみた。葬儀はそれまでにあった無数の選択肢の、いわば人生の結果発表。そんな風にも思えた。そして僕は父の初七日を終えて帰る新幹線の車中で「勇者死す。エンディングは葬儀。プレイ内容により参列者や弔辞が変わる」とメモした。
勇者様、好きでした