「はーい、今日はウフフな実験をしたいと思いまぁす♪」
いきなり立ち上がったシェリエルが妙なことを言い出したのは、あたしらが紅茶を飲み終えた直後だった。
どうでもいいけど、シェリエルってワザとおっぱい揺らしてるよな。
「実験ですって? いい加減にしてちょうだいな。どうせ、くだらないゲームなのでしょう?時間は無限じゃないのよ。有意義に使わなくてはね」
そう言うラナエルだって、今日ものんびりケーキ食って紅茶飲んでるだけなんだけどな……
隣のリリエルはぽかんとシェリエルを見上げてる。あたしはといえば、溜め息をつくことくらいしかできなかったりする。
ようやくわかってきたんだ。こいつらとの付き合い方ってヤツが。
「シェリエル先輩、実験って何ですか?」
あちゃ……
リリエル、そこはツッコんじゃダメだ。
ほら、シェリエルの奴がにんまり笑ってるじゃないか……
「実験というのはぁ――」
おもむろにおっぱいの谷間にもにゅんと手を突っ込むシェリエル。引っこ抜かれた手には、カードの束が握られていた。見た目はトランプっぽい。
「これでぇす♪」
「シェリエル先輩、それは何ですか?」
リリエルは興味津々だ。
鼻歌まじりのシェリエルがテーブルにカードを並べていく。
裏返しにされたカードは全部で22枚。並べ方は……テキトーくさいな。
「これはねぇ、とある世界で手に入れたアルカナっていうものよぉ。このカードにはねぇ、みんなの運命を教えてくれる不思議な力があるのよぉ♪」
ラナエルが鼻を鳴らす。
「運命ね。益々くだらないわ。こんな安っぽいカードごときに、わたしの運命が計れると思っていて?」
「いいからいいからぁ。ささ、ラナエルちゃんも一枚めくっちゃってぇ♪それとも、自分の運命を知るのが恐いのかしらぁ?」
「ふんっ。いいわ。そこまで言うのなら、つきあってあげましょう。わたしの右手は因果の螺旋すらも自在に操れるのよ」
意味不明なことを言いながら、ラナエルが中央のカードを一枚めくった。
そこに描かれていた絵は――妙な格好をした男。
「シェリエル、この絵は何かしら?」
「これは愚者ねぇ。なるほどなるほどぉ♪」
「愚者ですって? そう、わたしは愚か者ということ……面白いわ」
シェリエルがパンと手を打つ。
「はぁい。クロウエルとリリエルも、めくっちゃってぇ♪」
な、なんか緊張するな……
少し迷ったあたしは、手元にあるカードを選んだ。
そっと裏返してみる。そこには壺を持った女が描かれていた。
「こんなん出たんだけど」
「クロウエルは節制ねぇ」
「なんだそりゃ……よくわかんねえけど、愚者よりはいいっぽいな、うん。なあ、リリエルのは何が描いてあるんだ?」
リリエルがおずおずとカードを差し出す。
「こ、これです……」
車輪だ。でっかい車輪が描いてある。
「ウフフッ。そっかぁ、そうきちゃったのねぇ。
リリエルのカードはね、運命の輪。ホイール・オブ・フォーチュンよぉ♪」
「運命の輪……」
なんだか三人の中で一番意味深なカンジがする。
てゆーか、結局このカードから、あたしらのどんな運命がわかるっていうんだ?
「なあ、シェリエル」
「なぁに?」
「で、このカードの意味は?」
「ウフフッ、知らなぁい♪」
なんだそりゃ……投げっぱなしかよ。逆に気になるじゃねえか。
シェリエルの奴、もうカード片付け始めてるし……
「待ちなさい、シェリエル。あなたも引きなさいな」
ラナエルの言葉に、シェリエルの手がぴたりと止まった。
妖しく微笑み、束ねたカードの一番上を無言でめくる。
そこには、黒い羽の悪魔が描かれていた。