[作品タイトル]
TIME LETTER 〜未来の自分からの手紙〜

[応募者名]
川野真吾

「あれ?」

いつもと同じようにクタクタになって家に帰ってくると、珍しく郵便受けに荷物があった。

独身の僕に届くものといえばこれといって大したものはなく、どうせまた勧誘か何かだと思い、中身を取り出してみれば、それは小さな小包だった。

ただし少し予想を上にいくものだったが。

 第一に梱包が怪しい。

普通は地味な単色で受け取った側の警戒心や抵抗感を持たせないようにするのが贈り物の鉄則だろうが、これはどこかの星の美的センスを基準にしたかのようなサイケデリックカラー。

はっきりいえば不気味だ。

 次にこれが配達物と分かるのはちゃんと住所が明記されているからだが、ウチはともかく送り側の住所は見たこともない。

郵便番号の前に謎のアルファベットがつくというのはどういうことなのだろう。

 誰かのイタズラか送り間違いか、そう思ったとき宛先の文字に気になるものを見つけた。

「……まさか、な」

 もう一度よく見てみると、特徴的な字のはね方、日頃から目にする筆跡はまさしく僕のものだった。

「おかしいな。自宅宛の返送は書いた覚えがないんだけどな……」

 家の中に入って色んな角度から荷物を眺めてみる。

見た限りはいたって普通の郵便物だ。

音もあまりしない所から物騒なものが入っていることはなさそうだ。

しかし誰がこんなものを送ってきたのか。

確かに僕の筆跡だがやっぱり記憶がない。

そもそも自宅に届けるよう仕向けることに意味がない。

ひょっとして今か流行する新しい振り込め詐欺の一種なのか?

けどわざわざ本人の筆跡を使う必要はないだろう。

手間はかかるし、僕みたいに怪しまれるのがオチだ。

 これ以上、考えるのも面倒なので、そのまま梱包を破って中身を開ける。

「何だ、これ?」

それは三枚の用紙だった。

 用紙を手に取ってみるとそのうちの一枚が封書してあった。

表に記されているのはやはり僕の筆跡で書かれた僕宛の文字。

裏も僕の名前がある。

 封を開いて手紙を読む。

「えーと、この手紙が読まれているということは無事そちらに着いたということで、こちらとしては大変嬉しく思います。

若いうちは気になりませんが、衰えを感じ始めてくると些細なことにも奥深さがあったんだと切に感じるようになります――何、この歳より臭い文章は?

それに妙に馴れ馴れしいというか親しげな感じというか……え!」

 僕は唖然とした。

 その先に書かれていたのはこの手紙を書いたのが未来の自分だということだった。

僕にしか分からない思い出や出来事を旧友に語るようにつらつら並べてある。

誰にも言ったことのない秘密や恥ずかしい話なども、というよりもう少し婉曲な表現をしてもらいたかった。

これじゃ、青春時代の赤っ恥モノのラブレターと大差ない。

 やたらとどうでもいいことが書いてあったので要約すると、この手紙はどうやら四十年後の未来から今の時間へと送られてきたようだ。

文章の部分部分にSF的な語句が入っているからそこは間違いない。

 未来はある偶然が重なって時間跳躍の原理が解明されつつあり、一般人にもモニターとして広く実験に協力してもらっていること。

そんな世相と相まって巷では未来からの手紙(タイム・レター)と呼ばれる贈り物が大ブームとなっていること。

 未来の僕もその中のひとりであり、過去の僕に伝えたいことがあったので、筆を取ったという次第である。

 テーブルの上に手紙を置くと、少しだけ真面目に考えてみる。

 未来? 時間跳躍?まてまて。

アインシュタインの特殊相対性理論とかウラシマ効果とかが今世界中の学者さんらがその実証に身を削る思いで研究していると大学の頃、習った気がするんだけど。

そうすると僕がこうやって混乱している間に物理学界では急ピッチでタイムマシン造りが進んでいるのか?

そんなバカなことあるか?

違うだろ?

でも、しかしな……
 思案はものの三秒で終わった。

適当に考えたところで僕に分かるはずがない。

何にせよ手紙はある。

そして手紙はご老体となった僕からの便りなのだ。

 最低限、信じてみても悪くはない。

「でも、ありがたいことはありがたいけど、未来からのメッセージってイメージ良くないよな。

映画じゃ災いの前触れが定番だし」

 と、口にしつつも映画はあくまでスクリーンの世界なので無視しておこう。

仮にそういうものがあったとしてもこの手紙が送られてきた時点までは僕は存命していることだけは確かだ。

 封された手紙には続きがあり、ここからがメッセージになっているらしい。

その証拠にはじめにこんな注意書きがあった。

『まず、先の文を含めた未来からの伝言には未来に干渉する情報や内容はあらかじめ記載されません。

これは過去からの時間改変を防止するための基本原則であり、万が一そのような情報を記した場合でも時間管理局の監査ではぶかれますので、わたしがアナタに語られる言葉は曖昧で意味を汲み取りにくいものばかりとなっているのであしからず。

またアナタが疑問に思うような内容がいくつかあるかもしれませんが、それらは基本原則に当てはまらない程度の影響のない範囲とされていますので気になさらなくてけっこうです』

 歳相応に丁寧な説明。

ふいに未来の自分と対面することがあったら目上の人と同じ反応をするんだろうと想像してしまう。

 冷蔵庫からビール片手に四十年後の自分がよこした文章を読んでみる。

最初の一文はこんなくだりだった。

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