第四幕
『エトワールによる学術的考察と犯人推理』
チョリスの報告によると、現在わかっているだけで被害者は二十名に及び、ここ数ヶ月で急速に増えた行方不明者をこれに加えるとするならば倍にものぼる。
他の被害者たちの遺体はすでに埋葬された後だったが、チョリスはすべての遺体の状態を正確に記録していた。
どの遺体も被害状況は一致しており、全身の血を吸い取られ、老人のようになっていたとのことだった。
さらにチョリスは、被害者の首筋の傷跡が同じ幅で、穴の直径・深さも同じことから、同一の生物による犯行だということまで断定していた。
彼があえて『生物』という言葉を使ったのは、この凶行が人間によるものとは到底思えなかったからであろう。
そして、彼の報告の中で最も興味深かったのは、被害者が全員『女』だということだった。
説明は簡潔だったが、要点はしっかりとおさえられていた。
この報告でチョリスが優秀な医者であるということは十分理解できた。
報告を聞き終えたエトワールは一つの確信を持って、誰にいうでもなくつぶやいた。
聞き慣れない響きの言葉に、チョリスとその妻アイリスが同時に聞き返す。
皆が注目しているのをちゃんと確認してから、お返しとばかりに今度はエトワールが胸を張って、うんちくを披露する。
ここまで息継ぎもせず、まくしたてるように説明するとエトワールはようやく一呼吸ついた。
さらに周りの人間に息をつかせる暇も与えず、まるで水を得た魚の如くマシンガントークを続ける。
驚くべき肺活量である。
エトワールは五年前の大冒険以来、いざというときのために考古学、経済学、生物学、科学、医学、兵法、オカルト・超常現象に至るまで、ありとあらゆる分野の研究を独自におこなってきた。
とりわけ、経済学と科学で人並みはずれた能力を発揮し、人々は彼女を天才と称した。
しかし、それは大きな間違いである。
彼女は努力して、この能力・知識を身につけたのだ。
普段は性格上の問題で、そんなそぶりはまったく見せずに高笑いをしているが、ただ『いざというとき』という漠然としたもののために、ひたすら努力してきた。
そして、その知識をようやく彼女が望むシチュエーションでおひろめする機会に恵まれたのだ。
水を得た魚にでもカヘルにでもなろうというものである。
「さぁ、なぜだかお聞きなさい!」といわんばかりの鋭い視線に気圧されてチョリスは問いかけた。
満足そうにうなずいてからエトワールが答える。
ゴーン……。
ゴーン……。
エトワールの推理を阻むかのように、どこからか鐘の音が鳴り響いた。
いつまでも耳の中に残る耳障りな音だ。
エトワールがロコツに嫌そうな表情を浮かべると、察したようにアイリス夫人が教えてくれた。
夫人が窓の外を指さすと、そこにはポツリと古びた教会が建っていた。
それを見たエトワールは無意識のうちに不敵な笑みを浮かべていた。
他の被害者たちの遺体はすでに埋葬された後だったが、チョリスはすべての遺体の状態を正確に記録していた。
どの遺体も被害状況は一致しており、全身の血を吸い取られ、老人のようになっていたとのことだった。
さらにチョリスは、被害者の首筋の傷跡が同じ幅で、穴の直径・深さも同じことから、同一の生物による犯行だということまで断定していた。
彼があえて『生物』という言葉を使ったのは、この凶行が人間によるものとは到底思えなかったからであろう。
そして、彼の報告の中で最も興味深かったのは、被害者が全員『女』だということだった。
説明は簡潔だったが、要点はしっかりとおさえられていた。
この報告でチョリスが優秀な医者であるということは十分理解できた。
エトワール
「……ヴァンパイア。」
報告を聞き終えたエトワールは一つの確信を持って、誰にいうでもなくつぶやいた。
チョリス
アイリス
「ヴァンパイア……?」
聞き慣れない響きの言葉に、チョリスとその妻アイリスが同時に聞き返す。
皆が注目しているのをちゃんと確認してから、お返しとばかりに今度はエトワールが胸を張って、うんちくを披露する。
エトワール
「ヴァンパイア。
つまり、吸血鬼ですわ。
地方によって呼び方は『ノスフェラトゥ』『キョンシー』『エンプーサ』など様々ですが、人間や動物の血を糧にして生きる魔性の者ですわ。」
つまり、吸血鬼ですわ。
地方によって呼び方は『ノスフェラトゥ』『キョンシー』『エンプーサ』など様々ですが、人間や動物の血を糧にして生きる魔性の者ですわ。」
エトワール
「怪奇小説などでは人間の男の姿をした吸血鬼が多く登場しますけれども、実際には長生きした動物が変化(へんげ)することも珍しくありませんわ。
太陽の光に弱く、活動時間は陽が沈んでから夜明けまで。
その他の弱点は、どんな生物から変化(へんげ)したかによって異なりますわ。」
太陽の光に弱く、活動時間は陽が沈んでから夜明けまで。
その他の弱点は、どんな生物から変化(へんげ)したかによって異なりますわ。」
ここまで息継ぎもせず、まくしたてるように説明するとエトワールはようやく一呼吸ついた。
さらに周りの人間に息をつかせる暇も与えず、まるで水を得た魚の如くマシンガントークを続ける。
驚くべき肺活量である。
エトワールは五年前の大冒険以来、いざというときのために考古学、経済学、生物学、科学、医学、兵法、オカルト・超常現象に至るまで、ありとあらゆる分野の研究を独自におこなってきた。
とりわけ、経済学と科学で人並みはずれた能力を発揮し、人々は彼女を天才と称した。
しかし、それは大きな間違いである。
彼女は努力して、この能力・知識を身につけたのだ。
普段は性格上の問題で、そんなそぶりはまったく見せずに高笑いをしているが、ただ『いざというとき』という漠然としたもののために、ひたすら努力してきた。
そして、その知識をようやく彼女が望むシチュエーションでおひろめする機会に恵まれたのだ。
水を得た魚にでもカヘルにでもなろうというものである。
エトワール
「……ですがこの場合、女性だけを襲っていることから、敵は人間の男の姿をしている可能性が非常に高いですわ。
ワタクシの考えではヴァンパイアである可能性を持つ人は、かなり限定することができますわ。」
ワタクシの考えではヴァンパイアである可能性を持つ人は、かなり限定することができますわ。」
「さぁ、なぜだかお聞きなさい!」といわんばかりの鋭い視線に気圧されてチョリスは問いかけた。
チョリス
「ど、どうしてです?」
満足そうにうなずいてからエトワールが答える。
エトワール
「ポイントはこの村の生活パターンですわ。
こちらへうかがう道中に調べたのですが、村のほとんどの方は日中、放牧にお出かけになるそうですわね。
となると、その方たちはヴァンパイアである可能性はありませんわ。
他に一日中屋内にいて怪しまれないような人物がいるとすれば……。」
こちらへうかがう道中に調べたのですが、村のほとんどの方は日中、放牧にお出かけになるそうですわね。
となると、その方たちはヴァンパイアである可能性はありませんわ。
他に一日中屋内にいて怪しまれないような人物がいるとすれば……。」
ゴーン……。
ゴーン……。
エトワールの推理を阻むかのように、どこからか鐘の音が鳴り響いた。
いつまでも耳の中に残る耳障りな音だ。
エトワールがロコツに嫌そうな表情を浮かべると、察したようにアイリス夫人が教えてくれた。
アイリス
「ああ、あれですか?
あれは正午を知らせる教会の鐘ですよ。
壊れていたのですが、半年前、新しい神父様がいらっしゃったときに直したようです。」
あれは正午を知らせる教会の鐘ですよ。
壊れていたのですが、半年前、新しい神父様がいらっしゃったときに直したようです。」
夫人が窓の外を指さすと、そこにはポツリと古びた教会が建っていた。
それを見たエトワールは無意識のうちに不敵な笑みを浮かべていた。
エトワール
「ビンゴですわ。」