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大正時代。
これは町の外れにひっそりと佇む、
全寮制のお嬢様学校のおはなし。
そこは休日の外出も禁止された、まさに“籠の鳥”。
寂しさも楽しさも、思春期の鬱屈も共に過ごす
彼女たちは、
やがて「疑似姉妹」なる制度を
作り出した。
お互いの一番大事なものを交換して、
姉妹の契約をする。
卒業までの特別な関係。
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しかしある日、「疑似姉妹」の契約を
交わした
二人が心中をした。
二人はお互いの絆の象徴とも言える“大事なもの”を
抱きしめて絶命していたが、教師たちはその“象徴”を
元の所有者へと戻して事故死とした。
死ねばずっと一緒にいられる。
そんな思いで心中をしたふたりの絆は、
このとき容易に踏みにじられた。
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時を経て、学校は衰退し廃校となったが、その直後から近所からはおかしな苦情が相次いだ。
何かを探す美しい女生徒が現れ、すすり泣く声が聞こえると。
悲しくすすり泣く、少女のこんな声が…。
カ エ シ テ
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休み明けの箏曲コンクールに向けて、
夏休みの自主練習を始める神楽原女学園筝曲部の
鈴、真弥、累、麗子の四人。
夏休みに入ってまだ間もない頃、鈴は自分の夢に
見ず知らずの「お姉さま」を見るようになる。
特に気にもしていなかった鈴だが、
ある日「お姉さま」そっくりの
皇 有華(すめらぎ ゆうか)が転校してくる。
彼女は一冊の古びた手帳を大切にしており、
そこには学校にまつわる古い日記が記されていた。
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筝曲の家元の娘ということもあり、自身も休み明けのコンクールに参加するという有華。
しかし有華は、鈴たちの演奏を聞くなり
「音楽への侮辱だ」と足並みを揃える気も見せない。
入部早々に孤立する有華に、部長と共に
頭を悩ます鈴だが、ある時部長の下駄箱に
『旧校舎で話がしたい 皇』とのメモが入っていた。
「話し合いをするチャンス!」と意気込む部長を
鈴は見送るが、
しばらくして見つかったのは、
旧校舎の2階から転落した、血まみれの部長だった。
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鈴が見る不思議な夢、時期外れの転校生・有華。
神楽原女学園にまつわる古い怪談、幽霊が出るという旧校舎。
平穏な毎日を過ごしていた少女たちの日常は、絡み合う縁によって変わり始める。
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鈴や真弥、麗子、累の四人、そして有華。
少女たちの関係や絆は次第に深まっていく…。
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かつてお嬢様学校と呼ばれていた大正時代から続く、
歴史ある学校。
鈴たちの通う新校舎の他に、今は立入禁止となった
旧校舎が存在し、
生徒の間では「旧校舎には
幽霊が出る」なんて怪談が囁かれている。
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鈴たちが所属する神楽原女学園・筝曲部は、学園の中でも長く続く、歴史ある部活。
筝曲界でも名高い有華の家元と交流があった程以前は栄えていたが、
麗子の祖母が理事になったのを最後に、その伝統も絶たれた。
初心者の入部も多く、皆で「楽しい」演奏を大事にしていた部の雰囲気は、
有華の入部を機に不穏となる。
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レコードの音が聞こえてくる。
目指す教室まであと少しという合図。
今日の曲は何? ……ああ、これは『黒髪』。
「あの人」がいつだったか話してくれた、好きだと言っていた曲。
もうすぐ2人だけの時間が待っている、音がどんどん近づく。
弾む息。上気する頬。駆け足のせいだけじゃない、この心臓の鼓動。
扉の前で息を整える時間さえ惜しくて、そのままゴールテープを切るように、
ドアを開けて――。
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お待たせしました、お姉さま。
そう、逆光のなかの「彼女」に両手を伸ばして――。