あー助かった! コラムのネタが尽きて頭を抱えていたところに、来年二月発売の“勇者死す。”に登場する主要人物が数名、公式に発表された。しばらくはキャラクターの設定や声優陣の紹介で一息つける。いよいよネタがなくなったら、戦闘時にモンスターの行動を決める思考ルーチンの組み立て方とか、シナリオが分岐する際のゲーム独特の書式でも書こうかと思っていた。もちろんそんな地味な話より見目麗しい女の子のプロフィールや収録現場のこぼれ話のほうがはるかに需要があるのは明らかだ。
まず今回は、先月開催されたTGS(東京ゲームショー)で他のキャラに先行して公開されたサラとメリーアンのふたり。中の人はTGSで“勇者死す。”のステージイベントで司会もつとめてくれた、サラ役の五十嵐裕美さんとメリーアン役の松井恵理子さんだ。
TGSにて。右が五十嵐裕美さん、左が松井恵理子さん
サラは、ゲームの舞台である王国で信仰を集めるマーナ教会のシスターだ。魔物との戦時中に「神の下の平等」という教義を独自に解釈することで亜人種の参戦をうながした。これは劣勢であった人間側を勝利にみちびく大きな転換点となった。
現在サラは、焼失した大聖堂の再建をめざし、莫大な建築費用をあつめるため街頭に立つ日々をおくっている。彼女は、安息の象徴たる大聖堂の復活こそが戦争によって傷ついた人々の心をいやし、ひいては復興を加速させると信じている。その思いは揺るがない。
サラは誠実な女性だ。私利私欲はない。それは間違いない。そしてゲームスタート時から所持金がMAX、高額で売却できる超レアな装備に身をかためた勇者なら、サラの願いをかなえることは容易ではないにしろ難しくはない。にもかかわらず問題は山積みだ。
戦勝の功労者として有名で若く美しいサラは、マーナ教会にとって偶像(アイドル)に祭りあげるのにもってこいの存在だ。そこに本人の意志は介在しない。その一方で戦争による疲弊で権勢を失いつつある王侯貴族にしてみれば、サラの唱える「神の下の平等」というお題目は見過ごせない。国民の過半を占める信者の数も脅威だ。なんとしても教会の影響力を取り込みたい。それが無理ならいっそのこと……と考える者がいてもおかしくない。
また亜人種を参戦させるにあたり、サラは亜人種に対して教会の門戸を開くと約束した。だが、亜人種を嫌う保守的な信者も少なくない。大半の庶民はいまだ衣食住が足りていない。そんな貧しい人々にはサラが語る大聖堂再建など絵空事に思えるだろう。
サラを取りまく状況だけでもこんなに複雑だ。魔王打倒で一致団結していた正義はいまや人の数だけある。ようするに“勇者死す。”は面倒くさいゲームなのだ(笑)。
さてサラを演じた五十嵐裕美さんに少しふれておこう。サラは一癖も二癖もある登場人物のなかでは際立った特徴がなく感情の触れ幅も少ない“普通”のキャラだ。キャラに特徴があればそれを手がかりにできるが、特徴のないキャラを演じるにはどこを盛ってどこを押さえるか、繊細かつ断固たる創意が必要だ。だから五十嵐さんにお願いした。
ところで、サラは普通と書いたが、つい最近まで死体が転がっていた地獄さながらの場所で常に笑顔をたやさず普通を保てたとしたら、その人は普通じゃないと僕は思う。
メリーアンは、魔物の毒により草の一本すら生えなくなった土地を浄化することで人々を救おうとしている。彼女の正義を分類するなら典型的な弱者の味方だ。終戦で混乱しているこの国にあっては至極まっとうな、もしかしたら根は善人かもしれない。ただし、態度があまりに横柄でぞんざいなため、まっとうにも善人にもぜんぜん見えない。その怪しさから魔法使いあるいは詐欺師と近隣住民に呼ばれているが、自称は天才科学者だ。先進的な自分の考えを講釈しても誰も理解できないと、はなからあきらめている節がある。そんなメリーアンの口癖は、棒読みの「どうでもいいけど」だ。
変人メリーアンを演じたのは松井恵理子さん。たいした根拠があるわけではないが、彼女には底知れない可能性を感じることがある。もちろん僕の買いかぶりかもしれない。それでも期待をこめて松井さんにはできるだけいろんな役を振ることにしている。