桝田省治死す。

オリジナルの部品を作る方法

 来年2月発売予定の「勇者死す。」のテーマは、残された時間をいかに生きるかだ。
 前回のコラムでは、この「勇者死す。」を例に普遍的なテーマを扱うなら良質な作品がすでに山ほどある。 それらを分解すればあらかたの部品は楽にそろう。一から考えるより面白さのツボを確実に押さえられて一石二鳥! そういう虫のいい話をした。
 もちろん嘘だ(笑)。世の中そんなに甘くはないよ。
 既存の部品だけで今までにない面白いものを作ろうとするなら、既存の部品の寄せ集めであっても今までにないユニークな組み合わせや配置、配分が必要になる。
それに、よそから借用できるのは“あらかた”であってすべてではない。 既存のコンテンツから欲しい部品が探せないこともままある。そういうときには、どうするか?
 答は簡単。なければ自前で作ればいい! というわけで、第3回のお題は、前回とは逆に既存のコンテンツから調達できない、 つまりその作品にしかない「オリジナルの部品をどうやって作るか?」という話だ。 オリジナルの部品は、その作品の独自性、商品としては差別化ポイントになる可能性が高い。重要な部品だ。

◆未知なるものを描くには

 娯楽作品では、しばしば誰も見たことがない風景や今まで誰も体験したことがない状況が再現される。 その臨場感や意外性に観客も読者もプレイヤーも期待してお金を払う。
 たとえば今どきの映画であれば、未来から送られた人型ロボットがいかにして現代に現れるか。 本物の恐竜を目の当たりにした人間はどんな反応をするか。こんな場面は誰も見たことも体験したこともない。 だからワクワクする。
 ゲームはどうだろう。たとえば「俺の屍を越えてゆけ」なら人間と人外の間に生まれた子供はどれくらい人間離れしていてどこが人間に似ているべきか。 「勇者死す。」であれば、余命五日の勇者はどれくらいのペースで衰弱していくのが適正なバランスか。 これらの問も誰も答を知らない。ゲームデザイナーが想像して作るしかないまさにオリジナル部品だ。
 さて、誰も見たこともない体験したこともない場面や状況をいかに再現するかだ。
 結論から言えば、そんなのムリ~(笑)。見たことも体験したこともないものを再現できるほど 独創的なクリエーターなんていやしない。 仮に百年に一度の天才の手で完全に再現できたとしても一般人には理解も納得もできない。そもそも娯楽作品として成立しないのだ。 ではどうするか? さ、大事なことを言うよ! メモの用意はいいかな。

◆つらい虫歯も役に立つ

 誰も見たことも体験したこともない状況をリアルに再現するコツは、誰もが見聞きしたことがある、 普通の人が想像できる範囲の身近な体験に置き換えて考えることだ。
 たとえば「勇者死す。」。ゲーム開始時は最強のパラメータをもつ勇者が余命の五日間で衰弱していく。 この体力低下のペース配分を作る場合、まず僕がイメージしたのは二十代~四十代と現在の僕の体力の差だ。 乱暴に言えばゲームの一日を現実の十年と想定した。
 若いころにはできて今は不自由に感じることをとりあえず思いつくだけ書き出してみる。 階段を駆け上れない、徹夜明けは効率が落ちる、飛行機の移動だけでクタクタ・・・。
 加齢によるマイナス要素ばかりが並ぶと予想していたが、書きはじめると意外にも逆もけっこう思いつく。 五十代の今なら簡単で若いころには難しかったことだ。たとえば、僕より物知りの友人が今はたくさんいる。 ズルを含めてたいていのことは彼らに聞けばすぐに教えてもらえる。これが一番の財産だといまさら気づいた。
「勇者死す。」では、勇者の体力低下のマイナス分を途中で増える仲間のスキルでカバーしていく。 このゲームバランスを思いついたのは、物知りの友人たちのおかげだ。
 次にイメージしたのは、四十代のころ忙しさにかまけて虫歯を放置した経験だ。あれはひどかった。 この悪化の仮定を五段階に分けて五日間に割りふってみた。
 一日目。自覚症状はほぼない。ときおり瞬間的に違和感がある。二日目。 強く噛みしめたり氷水を飲んだときに痛みを覚えるが日常生活に支障はない。三日目。 意識して虫歯と反対側で噛まないと痛むが鎮痛剤で抑えられる。日常生活に重大な支障はない。 四日目。恒常的な鈍痛。触ると激痛。おまけに発熱と肩こり。それでも優秀なスタッフが周りにいれば仕事は続けられる。 五日目。何もできなくなり歯医者に行くも手遅れ。だいたいこんな感じだ。
 この悲惨な経験から得たのは、だましだましではあるが工夫すれば少なくとも四日目までは勇者の使命もなんとか遂行できる。 そういうバランスなら僕はリアルなチューニングができるという確信。 そして、歯医者には手遅れになる前に行けという教訓だ。