桝田省治死す。

〈緊急企画〉ゲームの音声収録の舞台裏

 9月のシルバーウイークのせいでコラムの締切りが前倒し。突然告げられた締切りはあさって。だが、明日はずいぶん前から約束していた声優さんたちとの飲み会がある。今さら断りづらい。さらに困ったことにコラムのネタがぜんぜん思いつかない。この苦境をいかに乗り切るか!?
「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」by任天堂の宮本さん。
 そしてひらめいたアイデアが「飲み会の席で声優さんたちに“ゲームの音声収録”の裏話や愚痴を語ってもらってコラムのネタにすればいいんじゃね? 原稿を放ったらかして飲みにいく口実もできるし、なんと! このコラムを添付すれば飲み代を取材費として申告できるぜ。ワハハハ」by桝田省治。というわけで今回のお題は〈緊急企画〉ゲームの音声収録の舞台裏である。
 快く取材に応じてくれたのは(ようするに飲み会の参加者)、Eテレで金曜深夜に放映中のアニメ“ログ・ホライズン”の、ミチタカ、ミズファ、ミノリ、ドルチェの声を当てている、いわゆる“中の人”四人。このうちふたりは、来年二月発売予定の「勇者死す。」にも出演している。

◆声優のお仕事

 Q.まずは基本的な質問から。一般人が想像する声優の仕事は、たぶんアニメと外画(外国のドラマや映画)の吹き替えだと思うのだけど、他にはどんな仕事がありますか?
 A.アニメと外画のどちらが多いかは人により違いますが、そのふたつの仕事が割合でいえばおおよそ八割。他にはドキュメンタリーやバラエティやニュース、それに通販のテレビ番組、CMのナレーション。イベントや展示館、アミューズメント施設などで流れる館内放送。駅のホームや電車内のアナウンス。カーナビの音声ガイド。聞く人は少ないけど仕事の数は意外と多いのが社内会議や株主総会などのプレゼン映像のナレーション。もちろんゲームやパチスロに登場するキャラの声もあります。
 Q.下世話な質問で申し訳ないけど、そういういろんな仕事の中で「これはおいしい」というのはありますか? 発言者の名前は出さないので赤裸々にどうぞ。
 A.アニメと外画のアフレコに関しては出演料が定められているのでとくに差はありません。それ以外の仕事は料金設定が厳格に決まっていません。2000ワードほど叫びつづけた数時間より、商品名とキャッチフレーズを読みあげた10秒のほうが、ギャラが高い場合もたまにあります。そういうときは正直「おいしい」です。あとは日本では初放送だけど、アメリカではすでにシーズン4が大人気とわかっている海外のテレビドラマのレギュラー役をいただけたときは、生活の安定という意味で「おいしい」です。なにしろ声優という職業は1クール(三カ月)ごとに就活しているようなものなので。

◆ゲームの音声収録

 Q.次はアニメや外画と、ゲームの収録現場の違いを教えてください。
 A.アニメや外画は他の役者との掛け合いがほとんどの集団作業で、ゲームの収録は原則的に一人ひとりが別に収録します。アニメや外画も自宅で練習していきますが、他の役者の台詞を受けての自分の台詞なので、まず予定どおりにはいきません。即興で対応する芝居が要求されます。ゲームの場合は、練習したそのままが採用されることもよくあるので、演技プランを組み立てる個人のセンスが問われる気がします。
 Q.じゃあ、アニメや外画の場合、練習にはあまり力を入れないのですか?
 A.いえ、台本を事前にどれくらい読み込んできたかは役者間では絶対にばれます。先輩に足を踏まれ、同僚に舌打ちされ、後輩に白い目で見られ……というのはウソですけど、そんな光景を想像するとちびりそうなのでできるだけ入念に準備していきます。
 Q.他に違いはありますか?
 A.ゲームの台本は、時系列もシーンもバラバラに台詞が並んでいることが多いので、どんな状況で発せられる台詞か首をひねることもあります。おまけに録音を委託された音響監督さんもよくわかっていないこともしばしば。そんな中で5ページくらいまとめて収録すると頭の中は“?”でいっぱい。解釈があいまいで芝居も小さくなりがちです。
 Q.「勇者死す。」の収録はどうでしたか? 今日の飲み代を取材費として僕の経費でおとすことを踏まえて大人の答えを希望します。
 A.シナリオライター兼ゲームデザイナーが音響監督までやっているのは、知るかぎり桝田さんだけです。事前の説明がていねい。なにを聞いても即答。修正指示が明確。収録のテンポがいい。……えーっと、これくらいヨイショしておけばいいですか? エヘヘ。