来年2月発売の『勇者死す。』のテーマはふたつ。当コラムの初回に書いた「残された時間をいかに生きるか」。もうひとつは「勇者が魔王を倒して本当に平和になるのか」だ。
思うに勇者が魔王を倒しただけで人類が勝利したなら、勝因は魔物側の戦術ミスだ。ただのミスなのだから魔物側の状況は変わっていない。いずれ侵攻は再開される。つまり万難辛苦を乗り越えて命を賭して魔王を討った勇者の行動は、大勢に影響を与えていないし結局なにも解決していない。功績はせいぜい時間稼ぎだ。人間陣営にしたところで勇者個人の戦闘力にたよるしか選択肢がないなら、次の魔物の侵攻を止める手立てはない。
人間もバカではない。身分制の撤廃、科学の発展、異人種との同盟、商業の自由化など、いくつかの変革の兆しはすでにこの世界にも芽吹いている。その象徴が『勇者死す。』に登場するヒロインたちだ。勇者は、余命5日の間に彼女たちに出会い、そのうちの誰かに肩入れすることで未来を託す。
というわけで前回に引き続き、ヒロインたちを紹介しよう。第4回「キャラクターを配置する」の対立と同調の話とあわせて読むとおもしろいと思う。
リューは、魔物との戦時下、途中から人間陣営に加わった亜人種、森人(もりびと)の戦士だ。弓と風の魔法に長け、勇者が魔王城に突入したときも最後まで付き従い、勇者をサポートしたチームの一員だった。間違いなく人類の勝利に対する貢献ははかりしれない。にもかかわらず、今は近隣の人間たちと一触即発の関係にある。敵対の原因は森の木だ。
森は、そこで暮らす森人の財産であり生活の基盤だ。その木を人間が勝手に伐採しはじめたのだから憤りは当然。片や近隣の村は、戦禍で家を焼かれ、煮炊きの薪にも事欠く緊急事態。人々は森の木を切らないと家族を守れない。どちらも死活問題なのだ。
さて、勇者であるプレイヤーは、かつてともに戦った仲間との友情をとるか、それとも明日をも知れぬ村人たちを救うか。苦渋の決断を迫られる。
リューの性格を擬態語であらわすと“ツンツンツンツン……デレ”くらいだ。加隈亜衣さんの看板とも言えるかわいらしい声をあえて封印しての“ツン”の連続。そして最後に控えめな“デレ”で締め。まさにご褒美である!
穴民(あなたみ)は、魔物との戦時中、森人と同様にシスター・サラの説得に応じて人間側に与した亜人種だ。金属の採掘と加工に秀でており、勇者が魔王を討った剣は穴民の特製だ。ナオミは族長の娘で、今は亡き父親に代わり実質的なリーダーを務めている。
穴民が直面している問題は、魔物の残党が坑道に逃げ込んだせいで採掘作業が滞っていること。くわえて王へ鉱石を献上する日が迫っているが、王都からの救援は一切ない。納品の遅れを口実にして王が鉱山の管理権を奪おうとしているとの噂もある。
ナオミは、穴民の子供たちを教会の学校に通わせるという夢をもっている。これは穴民が参戦する条件としてサラと交わした約束だ。ただし現実は、大きな角をもち魔物のような外見の穴民に偏見をもち差別する人間は今も多く前途洋々とは言いがたい。
ナオミは、よく笑うキャラだ。楽しいときはもちろん悲しみも苦しみも笑い飛ばす。ゆえに「わははは」という豪快な笑い方ですらチャーミングな行成とあさんにお願いした。
ビビは、転移魔法を駆使して文字どおり国中を飛びまわる、自称“謎の美少女商人”だ。夢をかなえるためには、買収、賄賂、密売、暴力、媚びと手段を問わない。見た目の愛らしさにだまされてはいけない。野望の大きさや圧倒的な実行力は勇者や魔王と並び、思考の柔軟さでは両者をはるかに凌駕するチートキャラだ。
ビビは、戦禍により廃墟となった港町を商業都市として再生しようとしている。その町を足がかりにして全国規模で商取引を自由化する。それがビビの描く未来のビジョンだ。
とプロフィールに沿ってビビのイベントを作成し、台詞までは書いた。ところが、多才に設定しすぎたせいか、ビビがどんな調子で喋るのかさっぱり声が思い浮かばなかった。
困ったときは、とにかく福圓美里さんを呼ぶ。彼女は、ぼんやりしたイメージをいつも具体的な形にしてくれる。収録時、福圓さんの第一声を聞いて「ビビってこんな風に喋るんだ、へ~」と妙に感心したのを覚えている。