先日、響 HiBiKi Radio Station“日本一RADIO死す。”というネットラジオの番組に出演した。番組タイトルからわかるとおり日本一ソフトウェアから来年2月に発売予定の“勇者死す。”の販促番組だ。(当コラムが掲載されるころにはすでに配信しているそうなので興味のある方は番組名で検索してください)
番組のパーソナリティは間島淳司さんと今井麻美さん、ゲストが村川梨衣さん。今井さんと村川さんは“勇者死す。”の主要キャラクターである天使ユリアとフローラ王女の声をそれぞれ担当している。……ということで、今回のコラムはユリアとフローラの紹介。それに番組中に喋った内容と多少かぶるが、収録時のこぼれ話だ。
ユリアは、神から遣わされた女性の天使。役どころはいわば司会進行だ。“魔王が討たれたあとの世界を、余命わずかの勇者が旅して、平和になったはずの世界に残る諸問題を、命のかぎり解決する”という状況設定や目的をゲーム開始から数分でプレイヤーに提示し、ゲーム終了時にはタイムアップを告げてプレイ結果を発表する。ゲーム進行に必要なこれらふたつの機能を彼女は担っている。
ユリアの注目してほしい点は態度の変化だ。“勇者死す。”は、同じ状況設定を異なるアプローチで幾度もプレイすることが前提のゲームだが、周回のたびにユリアは少しずつ砕けた口調になり勇者との距離感も縮まっていく。裏を返せば、その変化の演じ分けが声優の仕事、その微妙な違いのニュアンスを声優にうまく伝えることが僕の仕事となる。
当コラム第6回「〈緊急企画〉ゲームの音声収録の舞台裏」でも述べたとおり、アニメやドラマの台本はストーリーに沿って書かれているので台詞の意味もわかりやすい。だが、ゲームの台本では同じページに場面も感情も異なる台詞が羅列されている場合があり、説明なしでは解釈が難しい。そのためゲームの音声収録ではディレクションに割く時間が増えがちだ。そこで時間効率を上げるために、僕は声優のタイプによってディレクションの内容を変えている。たとえば“ちょっと取り乱している”という状態ならこんな感じだ。
A.「想像して。レジでお金を払っているときに後ろに並んでいる人のカゴの中に、自分が買ったのと同じ100g120円の豚コマのパックに10%オフのシールが貼られているのを目にしてしまった。それくらいの軽い驚きや悔しさを台詞にのせてみて」
B.「常に冷静だと思っていたキャラが一瞬だけ取り乱す様を見つけることで、なんだこいつも人間らしい感情があるんじゃないかと、この台詞でプレイヤーをほっとさせたいんだ。どんな工夫ができるかな?」
C.「台詞の頭は少しあせり気味で強く入るんだけど、2行目はいつもの抑揚をおさえた感じにもどして、とくに最後の文節は意識してふんわりと着地させるイメージだよ」
……とかね。もちろんいくつかの異なるパターンを併用することもある。
顔見知りの声優であれば、どんな演出が伝わりやすいか、おおよそ見当がつく。だが、“勇者死す。”に出演している声優陣で今井さんだけが過去に一度も仕事をしたことがなかった。僕らは最初は手探りで、イメージを近づけるために何度も話し合い、最終的には台詞のディテールまできっちりと仕上げていった。上手くいったと思うし濃密で楽しい時間だった。
フローラ姫は、勇者に恋焦がれる純粋無垢なロマンチストだ。同時に、いまだ混迷を続けるこの世界で次期国王の重責を担う宿命を自覚しているリアリストでもある。これ以上はストーリーのネタばれになるので書かない。「フローラはどんなキャラですか?」とラジオの収録中に質問された村川さんの返答も、僕があわてて口走ったピーピーという警告音で立ち消えになっているはずだ(笑)。
さて“りえしょん”こと村川さんの話を書こう。世間には、黙っていれば申し分のないと評される残念な美人がいる。とりあえず控えめにしていれば平穏な人生を過ごしていけるが、彼女が喋らなければならない職業、たとえば声優に類まれな才能があったとしたらどうだろう。その不運な矛盾を具現化したのが、りえしょんだ。彼女はその不運も矛盾も乗り越えて今日も元気で明るく無自覚に周囲を混乱させる。まさにフローラ姫は適役だ。