桝田省治死す。

キャラクターを配置する

 最初に告白してしまおう。少なくともゲーム制作において僕はキャラとかシナリオの創作があまり好きではない。 できれば誰かに丸投げしたいのだが、うまくいった試しがない。結局いつも締め切りぎりぎりになって自分で書くはめになる。 好きではない理由はシステム周りのデザインと比べて制約が少ないため最適な答が絞りこめず作業時間が読めないからだ。 くわえてだらだらと時間をかけてもシナリオの神様が降りてきたことなどただの一度もない。
 よって、これから紹介するのは、傑作や名作にはならずとも実用に耐えるレベルの面白さを確保しつつ作業にかける手間をできるかぎり削ることが目的のお手軽な……、いやいやオーソドックスな手法だ。

◆主人公の特性を洗いだす

 来年2月発売予定の「勇者死す。」を例に説明しよう。主人公は、いわゆる勇者だ。 国王の命を受けて比類なき戦闘力で魔王を倒したが、引き換えに自らの命を落とした。ゲーム開始時に神様の計らいで五日間だけ生き返る。 国の現状は、共通の大敵であった魔王がいた間は目立たなかった小さな対立や不満があちこちで顕在化している。 大雑把なイメージはベルリンの壁が崩壊した後の世界情勢に似ている。 勇者にできることは、刻々と減る時間と体力を横目で見ながら各地をめぐって山積みの問題をひとつでも多く解決すること。 それに最愛の人を探すこと。ただし勇者は恋人の顔も名前も覚えていない。
 本作の主人公は、余命わずか、恋人は行方不明、彼女の記憶もないという寄る辺ない状態で、国中をさまよい歩き行く先々でミッションを受ける。 この欠落、放浪、試練という三点セットは、古くはオデュッセウスやヘラクレス、 近しいところではドラゴンクエストの勇者や海賊王をめざす麦わら帽子の少年にいたる定番のヒーロー像だ。ありきたりだが今も多くの人に支持されやすい。
 続いて主人公にかかわるキャラを作ろう。ポイントは、主人公との対立と同調だ。
 主人公とは、ときに悩んだり戦ったり別れたり失敗したり、ようするに葛藤することでその物語のテーマをわかりやすく具現化するキャラだ。 逆に言えば、それ以外の登場人物はテーマを語りやすいように主人公を葛藤させる機能をもつキャラだ。

◆葛藤が起きる組み合わせ

 ではどんなときに葛藤は起きるのか? 協力者と思惑が異なる、同時に得られるのはひとつだけ、しくじるとすべてを失う、一度あきらめたが支援者が現れた等など。 主人公が目的に向かうベクトルに対立する要素と同調する要素がせめぎあうとき葛藤は起きる。 よって主人公以外のキャラには、主人公を葛藤させるべく対立と同調の性質をもたせるのがキャラ配置の定石だ。
 もう一度主人公の特性を確認しつつ、他のキャラがもつべき属性をリストアップしよう。
 勇者は王様に命令され従った。ならば、対抗は現体制に逆らうキャラだ。勇者が暴力で解決したなら暴力以外の方法でアプローチする。 勇者が魔王を倒したなら魔王復活をたくらむ。勇者が五日で死ぬならそれ以降も長く生き続ける。勇者が放浪するなら一箇所に根を張る。 勇者が衰弱するなら成長する。勇者が絶対的な正義なら別の正義を示す。勇者が男なら女。勇者が若者なら老人。
 こんなふうに勇者と対立する性質を洗いだしたら、これらのいくつかと同調する要素を組み合わせる。その際の留意点は、テーマを浮き彫りにする方向、つまりそのキャラと出会えば勇者が葛藤しそうな組み合せを選ぶことだ。
 異なる組み合せを数人分作ったら敵や味方のキャラに適当に割りあてる。 各人の性質の組み合せに合うように住所、氏名、年齢、職業、賞罰、特技、病歴、趣味、将来の夢、3サイズなどそれらしいプロフィールをでっちあげれば完成だ。
「勇者死す。」の次報からは、すでに発表されている四人以外のキャラや声優さんの配役も公開されるはずだ。 今回のコラムを参照しながら、キャラ一人ひとりに勇者とのどんな対立要素や同調要素があるのか、それによってどんな葛藤が引き起こされるのか、推測しながらクロサワテツのイラストを眺めるのも一興。かわいい容姿がいつもと少し違って見えるかもしれない。